すっかり上機嫌になった谷中と言う男性が席を立ったのは、2杯目と思われる

ジンライムを飲み干し、グラスから氷の音が2回ほど聞こえたときだった。

「マスターまた来ますね。」

その言葉と同時に孫の彩花がジュリアのキーらしいものを握り男性の前を歩き出した。

「頑張って維持してくださいね。」

諒に向かって優しく語りかける女性に、比奈はヤキモチを焼いた。

「また、お会いしましょう。」と紳士的な口調で、お酒に飲まれる様子もなく、しっかりとした

足取りでレジまで進むと、会計を済ませた彩花は早々に外に出て行った。

なにやら、小声で男性とマスターが話をしているようだったが諒と比奈の目線は

外を歩き、スーパーのドアを開けようとする彩花の仕草に釘付けだった。

左側のドア前で「カチャ」と音がすると、しなやかな足は、戸惑いもなく運転席に納められた。

ブレーキランプが付いたとかと思うと「ボン」と言う音と共にエンジンが掛かったのがわかった。

揺れることなく静かにアイドリングするスーパー。それでいて力強くマフラーから排気ガスを

出しながら、蒸気の白煙を燻らせながら男性が出てくるのを待っていた。

やがて、話が終わると男性は足早にスーパーの右ドアを開け体を滑らせた。

ライトが点灯し、2度ほど煽らせた排気音と共に少しづつスーパーは動きだした。

諒たちはスーパーの後ろ姿を見送ったが、あっと言う間に見えなくなり

それと同時に爆音に変わり静寂な空間を切り裂いて遠くへ消えていった。

「今のは、2速7000回転回ってるかも。」と、諒はワクワクしながら

比奈に対して知ったような口調で少し大げさに話してみせた。

やがて、二人だけとなった店内は、マスターとの距離をおいて静かに二人の空間となった。



 しばらく話をしたあと、比奈はある提案をした。

「今日何日だっけ?」

「・・・26かな?」

と、カウンター隅にあるカレンダーを見ながら言ったが、実際はよく見えなかった。

「今日を記念日にしよ。」

「何の?」と、興味ありげに諒は聞き返した。

「なんでもいい。たとえば、毎年ここに来ようよ。」

「毎年??」と諒がつられるように言葉をなぞった。

外を見ながら思いつくように言った比奈は、さらに続けた。

「月が綺麗な日。雨なら中止でいいよ。」

「ジュリア出したくないでしょ。」

「いいけど。今日って満月?」と言うと、諒は夜空を見上げながら

綺麗なまん丸の月を見て大きく深呼吸した。なぜか、深呼吸した。

「あ、でも26日が毎年満月とは限らないよね。」

「そうだね。11月末の満月の日だね!」と元気よく比奈は提案した。

「もし・・・。二人で来れないときは、別れてる時かな。」と

意地悪そうな口調で比奈は、諒を見つめながら反応を見た。

「そうだよね・・・。」と、諒は苦笑いした。

なにげなく、約束した諒だったが、この日が特別な日になるような気がした。


 そして、この約束は、次の年も続いた。



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