いつものコースを通りながら国道から観光通りへ曲がる諒。

話が好きな比奈はマイペースでずっとしゃべり続ける。

聞くことが好きな諒は全然苦にならなかったが、上の空だった。

「あ、また聞いてない。」

「メーター見てる。」

「いやいや、聞いてるよ。普通に見てるだけだし。」と焦る諒に、

「じゃ〜。今何話してた?」

「えっと〜。上司の悪口。」

「それは、ずっと前!」と比奈は、脇腹あたりをグーで殴った。

油断していた諒が、思わずハンドルを動かし、車体が少しだけ揺さぶられた。

「危ないな〜。事故したらどうするんだよ。」

「死ぬんじゃな〜い。」と外を見たまま、怒った比奈が突っぱねた。

「これ、音うるさい。前のに戻してよ。」

「え、もうちょっと様子見ようよ。いい感じじゃない?」と諒が説得する。

「ますます、声聞こえなくなる!」

「ゆっくり走れば、そんなに変わらないよね?」と諒が、なだめるように言った。

比奈は無視した。

しばらく沈黙した後、いつもの峠に向けてのぼり坂になった。

機嫌を損ねたまましゃべってくれないうちに、2000GTVは「NORD」に着いた。

黙っていた比奈が先に話し出す。

「諒、あのくるま何?」

いつも駐車していた場所には先客がいた。

「あれは、ジュリアスーパーだよ。」

「かわいい!!!」

「高い?」

「程度によるし。」と言うと、諒はジュリアスーパーにヤキモチを焼いた。


「白いジュリアいいね!」

「うん。白は女の子が乗ったら特にカッコイイ。」と諒は自分の主観で言った。

「あれも、四つ葉が付いてるね。」

「うん。定番だよ。」と言いながら、諒は、入り口に近い側のU字駐車スペースへ

バックで駐車しながら答えた。

「どんな人が乗ってるのかな?」

「入れば分かるよ。」と明らかにそっけない風に言うとエンジンを切った。

そんな諒の気持ちなど、気にもせずワクワクしながら比奈が先にお店の扉を開けた。

「カラン。カラン。」

「こんばんは〜」とやさしい比奈の声が響く。

後ろから付いてきた諒がドアを閉めるのを待って、マスターが「いらっしゃいませ」と言った。

比奈が奥の2人を見ながら諒の2000GTVが見えるテーブルに座った。

 後から、座ろうとする諒を、奥の二人が見ている気配を感じた。

諒が、目をやると、見るからに品のある初老の男性がニコッと笑いながら、

おじぎをしてきた。

諒は、知り合いではない。と思いながらも軽く頭を下げながら比奈の隣に座った。

「諒、知り合い?」と比奈が気にする。

「いや、知らない。」

「隣の人は?」

「ううんん。知らないよ。」と娘らしき女性の方を見ながら返事した。

マスターがお冷を持ってきてくれるのを待って、エスプレッソとカフェラテを

注文し終えると、それを待っていたかのように、初老の男性は、諒へ近づいてきた。

「貴方の2000ですか?」

「あ、はい。」

「みんな、ジュリア好きですね。」と、マスターの方を見ながらつぶやくように言った。

「私も若い時は、1750に乗っていたんですけどね。年取ったら4枚ドアがよくてね。」

「でも、TIスーパーですよね。」と、全然大人しくなさそうなジュリアスーパーを見ながら

諒は、羨ましそうに言葉を返した。

「ハハハッ。」と更に顔のシワを深くしながら、大いに初老の男性は笑った。

瞬間的に、比奈はもう1人の女性の方を見ながら、初老の男性に話しかけた。

「お孫さんですか?」

自分のことを聞かれたのに気づき、いち早くその女性が自分から口を開いた。

「はい。そうです。」と言うと、にっこりと比奈へ笑みを返した。

「ここまで、運転してきたのは、孫の彩花ですからね〜。」と初老の男性は、自慢げだった。

「へぇ〜。え〜。」という諒と比奈の声が混ざり合った。

「もう、おじいちゃん。自分がお酒飲むから連れてくるんでしょ!」と照れくさそうに言い

その先の言葉を遮った。

「貴方は、自分で修理されるのかな?」

「少しだけです。初心者みたいなものです。」と正直に諒は、言った。

「時間を掛けて、自分で少しづつやればいいんですよ。好きならすぐ覚えますから。」

「諒くん。ちゃんと整備されたジュリアは、良く走るんだよ。」と言いながら、

マスターが2人が入って来た時から煎り出した

エスプレッソとカフェラテを持ってきてくれた。

「彼みたいな、変態にならないように・・・」と、こっそり初老の男性がささやいた。

「谷中さん。聞こえてるんですけど。」

そう言われても、特に嫌な気持ちになることなく、マスターが機嫌良さそうに

テーブルにカップを静かに諒と比奈の前に置いた。


1/2/3