第2回 「約束」



 1991年、20歳の諒と比奈は同じバイト先で知り合った。

どちらからともなく好意を寄せ、いつしか二人は付き合うようになった。

この年に諒は、「2つ」の運命に出会う。

「比奈」と「2000GTV」

いずれ、車がほしいと思っていた諒だが、2日後には貯蓄していた

お金を降ろして購入したのだった。

付き合い始めた二人だったが、諒が「ジュリア」を買うことを比奈は反対しなかった。

つき合いが浅く、そこまで強制できなかったことも事実だが、

比奈自身も反対するような「きらいな車」だとは思わなかった。

むしろ「かわいい」と思った。

それから二人でドライブ中、数多くのトラブルが起こる。

ウインカーが点かない。

サイドミラーが落ちる。

エンジンが掛からない。止まる。

車内がガソリン臭い。

フロア下から音がする。

諒にとっては、ある程度覚悟していたことだが、比奈にとっては大迷惑だった。

だが、比奈はそんな2人を許してあげた。

自分勝手で、だらしない「諒」と、雨の日に乗れず、いつ壊れるか分からない「ジュリア」

諒と比奈は、そんなジュリアと沢山の思い出を作った。

3人はいつもいっしょだった。



 ・・・3年後。

もうすぐ、諒が私のマンションの下に向えに来てくれる。

比奈は身長164センチ、体重43キロ。スラッとした体型で、目が大きく

色白の太股がミニスカートと膝丈のブーツの間からわずかに見える。

決して、ブランド品で全身を着飾ることはしないが、何を着てもよく似合っていた。

マンションに入っていく住人が、玄関アプローチで待つ比奈に目線を向ける。

比奈が左肩から掛けたバックが、マメツゲの生け垣に当たり、「ガサッ。」と音を立てる。

コンビニの見える狭い交差点を見つめながら、唇を横に広げてリップを馴染ませた。

その時、マンション裏手から「ブォン。ヴォン。」と暴走族のような音が聞こえてきた。

その音は、比奈の見つめる交差点に近づく。

 深緑の2000GTVが、ウインカーを点滅させながら左折してくるのが見えた。

諒がハザードに切り替えて比奈の前に車を停止させた。

比奈が左座席の方に回り込もうとする。

諒は、3分の1ほど開けていたウィンドーを下まで降ろすと

「助手席は、右だよ」と笑いながら言った。

間違ったことに気づき、慌てて照れながら比奈が右座席に回り込む。

そんな、比奈を「かわいい」と思いながら、諒は助手席のドアを内側から

開けてやった。

「比奈、お待たせ。」

それには答えずに「また、間違った。」と助手席のドアを閉めながら

恥ずかしそうに、はにかんだ。


「あのさ〜。」

「何?」と諒は聞き返しながら右ウインカーを出すと、後方確認しながら

ゆっくりと発進させた。

「音うるさくなってない?」

「そうかな〜。」と諒は、前と変わらないという雰囲気でごまかす。

諒の目を見ていた比奈が、「うそ付いてる!」とするどく聞き返す。

「しゃべる声も聞こえないよ。」と比奈がたたみ掛けてくる。

「ちょっと、こっちの方がいいかな〜と思って変えてみたんだよね。」

「やっぱりね!これだけ音が違えば気づくよ。」

「だめかな?」

「幾らしたの?」

「2万円。」

と言う諒の言葉を聞くなり、比奈は諒のほっぺをつねった。

「また、ムダ遣い。壊れたところだけ直せばいいの!」

「ふあい。わかりますた。」と頬をつねられたまま、諒が謝った。

二人を乗せた2000GTVは、比奈の機嫌を伺うように

静かに「NORD」へ向けて、進んで行った。


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