第1回  「彼女と彼女」



 僕は、毎年この日、夜のドライブに出掛ける。

あの日からずっと続けている・・・・。

 何も変わらずに今年もこの日がきた。

 11月26日。

変わろうとする自分を、いつもこの日が引き戻す。

忘れることはできないが、振り返らない努力をする。

それでも、ふとあの頃を思い出す。

 僕は、彼女をいたわるために、雨の日は出掛けなかった。

比奈が言ってた台詞を思い出す。

「雨の日は乗れないの?どうして!だいたい、私と車どっちが大事なの!」

よく僕を困らせた。

 トランクルームのキルスイッチを繋げ、電磁ポンプを作動させる。

「ジジジジ・・・・・」

2回だけアクセルペダルを踏み、ホットコーヒーで手を温めながら、キーを右まで捻る。

「シュシュ、ボォン!!!!!!」

とりあえず、車庫から車を出し、手動でアクセルワイヤーを引き、アイドリングを1200回転にする。

少しぬるくなったコーヒーを口に含みながら、夜空を見上げる。

「今日は、久しぶりに満月・・・綺麗だな」

良く整備された車を満月が明るく照らした。

 1972年式、アルファロメオ 2000GTV、左ハンドル。

今もこの車は、僕の彼女だ。

 何事もなくエンジンが掛かったことに満足しながら、僕は車庫のシャッターをゆっくり降ろした。


暖気運転を済ませ、油圧、水温、燃料計を確認すると、アクセルワイヤーを戻しライトをつける。

 ギアを1、2速の間に滑らせ、一呼吸おいて1速へ。。。

静まり返った空間を壊さないように、ゆっくりアクセルを踏みハンドルを右に切った。



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